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◆再構成の剣 要TP20 攻撃後 回避UP / 物理攻撃 1 命中 95 / MaxHP 1 雷
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プロローグ 『収束、あるいは幕開けの』 許される介入は限られる。 既にこの手を離れた世界。 人が、人として、人の手で、選び取る一筋。 そこに介入は許されない。 許される境界は、深く、狭い。 ”今”の私は、澪標。 限りない分岐を指し示す。 さぁ、選び取れ。 選択せよ。偶然を必然に、必然を未来に。 時の針を進めよ。不確かな未来を定めよ。 未来を現実に。その手にせよ。 「”今”の私は、眺める者。分岐を示し、祈る者。 私の手を離れても、 選択され、定められ、現実になってゆく未来を、 見届け、記憶し、伝える存在」 第一章 第一節 『ココではないどこかへ』 一緒にいたいと望むことに もし、資格が必要なのだとしたら 持ってるもの、全部投げ出してでも 一緒にいられる資格が欲しい。 許して欲しくて、どうしたら良いのか分からなくて、もどかしい気持ちを持て余してる。 穏やかな声、微笑む気配、優しい仕草。 そばに居たくて、逃げ出したくて……どうしたらいいのか…… 何を、どうしたら……? 『世界を越えて、君を呼ぶ声』 生温い風が肌を撫で、草と土の匂いが鼻を掠める。 さくさくと草を踏み分けながら当ても無く鬱蒼とした木々の間を彷徨うこと、歩き疲れて狂ってきた感覚では約二時間。 楽しげに先を行く少女の後を追いながら、綾城 澪はこんなことになるなら気まぐれなど起こさなければ良かったと少し後悔していた。 肌寒い春の嵐が吹き荒れる早春の京都にいたはずだった。 路面から吹き上がる風に乱された髪が視界に入るのを嫌って、前髪をかきあげる。 わずかに色素が薄い瞳を細身のサングラスで隠し、細身の身体を膝下までのスプリングコートで包む。 不調を訴える身体を無視して、格子の街並みを南へ下っていた。 高校進学を期に家を離れることを決めた。 そばにある大切なものは、少ない方が良い。 薄闇の中、目の前で飛沫を上げた深紅が脳裏によぎった。 いつもなら気付かない小路に気付いたのは、一瞬、強い風が穏やかになったから。 曖昧になった境界が、強い風で玩ばれているように散らばる。 強大な力を感じる。近寄るなと経験が告げる。 力の中心まで、あと三歩。引き寄せられるように歩みを進める。 向こうから来る長い黒髪の少女に気付いた瞬間、少女と自分が大きな力を含んだ風に飲み込まれ、意識すら遠のいていくのを感じた。 そして気付けば鬱蒼とした森の中。 疲労から俯きがちに歩く澪の顔を覗き込むように少し前を歩いていた少女が声をかけてきた。 「体力無いんだな?」 赤みがかった黒髪が細面の輪郭を縁取って肩から滑り落ちる。 釣り目気味の瞳は、右目は緑。左目は茶色。 怒っているような印象のある鋭角的な顔立ちに僅かにいたわりの感情が見え隠れする。 澪より少し背の高い細身の少女は龍ノ城 琴菜と名乗った。 「れーちゃんつかれた?」 くるりと振り返った先を行く少女は空原 春日。 琥珀色の長いくせっ毛を翻す。 糖蜜色の大きな目と丸みを帯びた輪郭、小柄な体躯のどこにそんな活力があるのかずいぶん歩いたにも関わらず元気よく駆け寄ってくる。 右手に当たる柔らかい感触に目を開けた。木漏れ日の眩しさに目を細めながら起き上がる。右手に当たっていたのは妹のものによく似ただった。 穏やかな茶色の髪の少女の寝息になぜか安堵して、少女の身体越しに長い黒髪の少女を見つけた。 気怠くて、なんとなしに眺めていると黒髪の少女が目を開けた。 色眼鏡を通していない目は、少女の瞳の色に気付いた。片目ずつ色が異なっているのだ。 既視感。いつも首に下げている二つに割れたのであろう水晶球が動きにあわせてチリン、と鳴った。 「大丈夫か?」 目の焦点がなかなか定まらないので声をかける。 「あ…あぁ……確かさっきすれ違いかけたよな?ここでは無いところで」 言われて周囲を見渡すと、そこは明らかに今までいた街ではなく、鬱蒼とした森の中で一カ所だけ拓けた場所。 耳が痛くなるほどの静寂と穏やかな日の光だけがあった。 「とりあえず」 先に立ち上がった黒髪の少女が手を差しのべる。 「私は龍ノ城 琴菜。あんたは?」 「……綾城 澪。オレとすれ違う時、妙な感じはしなかったか?」 「した……気はするな……」 ふぅん、と相づちを打ちながら澪は、すぐ横で眠っていた少女を起こそうとする。 「んぅ~……」 寝ぼけた声と共に糖蜜色の大きな瞳が開いた。 「……あれぇ?ここどこ?」 間の抜けた声に二人共一気に脱力した。 「……わかれば、それにこしたことはない。」 さめた口調で澪は返答した。 「え!?わかんないの!?ここドコ!?」 「お前……名前は?」 「春日!私、空原春日っていうの」 「……ちゃんと姓と名がハッキリしてるし、なんか思いっきり日本人ですって名前だな」 と少し安心したような感じで琴菜がそうつぶやいた。 「で、春日?何処から来たんだ?オレたちと同じ場所からではないだろ?」 「え……?京都っ」 澪がさりげなく少女に聞くと、少女は思い切り微笑んで、答えた。 「京都って……」 「え、ここ京都じゃないの?」 「「……」」 呆れたように二人がため息をつく。 「明らかに違うだろ……」 澪が呆れたように言い放つと、琴菜も同意するように頷きながら呟いた。 「それにしてもココはどこなんだろう?」 「日本ではない気がする。どこか別の……」 まるで風が通り抜けたような声で澪が言った。 周りを見渡してみても、先ほどからの景色に変わりはなかった。唯一変わったものといえばそう……太陽の光が差す位置が少し変わったくらいだった。 それ以外はまったく何の代わりもなく、時間だけが経っていった。 木漏れ日と新緑が目に痛いほど。現実離れした、どこまでも穏やかな空間。 すうっと風が吹き始めたとき。 「あの時感じた気配と何か関係があるのだろうな…多分…」 ぽつりと澪が呟く。 「あの気配を感じたとき、オレは……オレのカンが近づくなといっていた」 「私も私のカンが同じコトを言った。でも私は不思議と無意識のうちに進んでいた」 琴菜が応えるように言う。 「で気が付いたらココにいたって訳だな。オレと同じで」 納得したように頷いた澪が、春日の方へ振り向いた。 「お前は何か感じなかったのか?」 「何の話?」 春日がきょとんと首を傾げる。 「解ってなさそうだな……」 期待していなかったけど、と肩をすくめる琴菜に、春日が気にせず話かけた。 「ねぇ、それよりココから移動しないの?お散歩したい~」 「そうだな……ここにずっといても仕方ないな……でも、どこに行けば……」 独り言のように琴菜が呟く。すると、春日が突然、笑顔である方向を指差した。 「ねぇ、あっちに行こうよ!なにかありそう」 「そっちに……何があるんだ?」 琴菜が訝しげに春日に尋ねる。 「わかんないけど、何となく楽しそうー」 あっけらかんと春日が答えた。 「行ってみても良いんじゃないか?人に会えれば良いんだろ」 澪の一言で一行は、見ず知らずの場所で見ず知らずの道へと進んでいった。 第一章 第二節 穏やかな光がオレンジに染まりだしたころ、朱色の木々の隙間に何かを琴菜が見つけた。 「……城壁?」 忽然とそびえるそれは漆喰が所々はがれているが堅牢な石造りで内部を懸命に守っているかのようにも、外部からの侵入を拒んでいるようにも見えた。 「街だろうな、人がいるはずだ」 微かに安堵した様子で澪が呟く。 「まぁ、住民が友好的とも限らないし、人間ですらないものがいるのかもしれないがな」 「それでも行くしかない、だろう?」 琴菜が城壁を見据えたまま言うと、そのとおりだ、と澪が頷いた。 「おなかすいたなー、ついたらごはん食べたいなぁ……」 春日が二人の空気お構い無しにぽつりと呟いた。 目標が見えると気分も持ち直す。早足にそちらに向かう。 見上げるような城壁には不釣り合いに小さい城門があり、周りを耕して作った畑で男達が農具を振るっているのが遠目からも分かる。多くの布を使い全身を覆った人々の服装や、西洋の農村のような雰囲気から日本では無い事は明らかだった。 「この国の言葉が知ってる言葉ならいいのだが……一応すぐに逃げ出せるようにはしておいたほうがいい」 澪が眉間に軽くしわをよせて呟いた。 不意に近くにいた男達が三人に気付いた。彼らはなにか二、三言交わすと一人は街の中へ、残った三、四人がこちらへと近づいてきた。 人のよさそうな老爺がにこにこと語りかけてくる。 「もし、変わった服装ですが旅のお方ですかな?」 彼の口からでてきたのはその衣装に似合わぬ流暢な日本語だった。 驚いて思わず顔を見合わせる。 「いや、旅のものというか……」 悩む琴菜の声に被さるように澪が 「ああ、どうも道に迷ってしまったらしくてな。ここがどこかお尋ねしたい」 毅然とした口調で言った。 「ふむぅ……」 老爺はしばらく何か考え込む。その間にさっき別れた一人が人を引き連れてやってきた。 引き連れてきた皆人間は少なからず武装している。 「やばい感じか?」 琴菜が澪にぼそっとささやく。 「……好意的ではさっぱり無いな」 澪が苦い顔で返す。考え込んでいた老爺が顔を上げた。 「申し訳ないが、わしらはほいほい人を街に入れられないのじゃよ」 周りの人間が武器を構える。 緊迫した空気の中、 「よかったね!人一杯だね!」 春日だけがにこにこと喜んでいた。 「何処からおいでになったか、お話ねがいましょう」 老爺の側に立つ若い男が警戒心もあらわに言い放つ。 「要請ならともかく、強制されるのは嫌いでね」 無表情だった顔に侮蔑の色を含ませて澪が言い返す。 険悪なムードに琴菜が澪を諌めようとしたとき、人垣の向こうで小さな騒ぎが起こっていることに気付いた。 「誰か、来るね」 春日の言葉通り、人垣をかき分けるように青年が一人、三人の目の前に姿を現した。 細身の長身、蒼白色の髪、浅黒い肌。右の瞳は布と赤い石をあしらった眼帯で隠され、露わになっている左の瞳は濁った金色。 首周りの広い服から覗く右の首筋には火傷だろうか、ケロイド状になった広い範囲の傷痕。右の手のひらには指先だけ空いた手袋をし、左の腰に細く長い剣を下げている。 若草色の上着と薄い黄色のズボン、革のブーツに身を固めた青年は澪達からわずかにずれた位置に視線を合わせていた。 地位のある人間なのか、周りの人間が判断を委ねるように彼を通す。 「……中央からの者では無いようだ、服装もずいぶん異なる」 「しかし……!!」 左の瞳が反論しようとした青年をとらえた。 「武器も防具も身につけず、たった三人で攻撃に来るとも思えないだろう?」 掠れたバリトンが正論らしき物をはいたらしい。 その声をきっかけに人垣が崩れ、武器を降ろした人々は街に帰って行った。 「やはり……この世界の服では無いな……」 「はぁ?」 一人で納得している青年に三人は疑問をぶつける。 「さっきのは何だったんだ?」 「ずいぶんと手荒な歓迎だな」 「ご飯ある?」 一気にぶつけられる質問に動じることなく、青年は少し苦労して澪に視線をあわせた。 「お前達は……ココではないどこかから飛ばされて来たんじゃないか?」 「!?」 「……どうして、そう思う?」 澪の質問に青年は視線をそらした。 「……俺の名はルギネス。……俺が……お前達を呼んだ」 「お前が!?」 第一章 第三節 『隻眼の剣士・兎の乙女』 「ココは、お前達の知る世界では無い。 この国は『スティージェ』。この街は『西の都・ヴェルトロ』。 中央である主都、『王都・インテルミネイ』にいる国王・ルーベルト=スファルシェ=コートレートと、魔神・ジュデッカの悪政に抵抗する地下勢力の一活動拠点でね、皆、外部からの人間に敏感になっている」 淡々と話す、ルギネスと名乗った青年について街に入る。 「で?それと私達に何の関係がある?」 と琴菜が言うと、澪も同感だと言わんばかりに頷く。 「突然招いておいて申し訳ないが……これから起こす『革命』に力を貸して欲しい」 「……関係無いな」 澪は一言で切り捨てる。 「ココはお前達の世界だろう?オレ達には何の関係も無い。突然呼ばれて、手伝えとか言われて。やるわけが無いだろう」 「……確かに、そうだろう。 でも、この革命が終わらない限り、お前達も元の世界には戻れないんだぞ?」 ルギネスの一言に、澪は一瞬、その無表情な面に悔しそうな、不機嫌そうな色を滲ませた。 「……それは、脅しか?」 と、琴菜が冷めた表情で言葉を発した。 「……そう、とらえられてもしかたないとは思う。しかし、事実には変わりない。」 ルギネスは淡々と答える。 琴菜はどこか納得のいかない表情を浮かべた。 「引き受けては……くれないだろうか?」 しばらくの沈黙を破ったのはルギネスだった。 そしてまた、長いようで短い沈黙が続く。 「ルギネス様、わざわざお招きしたお客様とこんなトコロで話すのも何ですし、砦にご案内されては?」 長身のルギネスの背後から突然少女の声がした。 極自然に振り返り「わかった」と言う風に静かに頷くルギネスとは対照的に、三人は思わず目を見開く。 ルギネスの影から姿を現したその少女の姿は、見た目は本当に普通の少女だった……唯一つ頭から出ている兎のような耳を除いては。 色白の頬、大きなブラウンの瞳、薄桃色の長い髪。しなやかでふくよかな女性らしい小さな肢体。 淡い草色のワンピースを二枚重ね、長い袖の上から両手首を細いリボンで飾っている。 そして、その髪の間からは白い兎の耳。瞳や表情にあわせて時々動くそれは明らかに作り物には見えなかった。 見慣れない姿に言葉も失っている三人に、少女はニコッと微笑みかける。 「では、参りましょうか?」 三人はその微笑みにただ従ってしまった。 一行が砦に向かう中、三人はやはりどこか納得のいかない面持ちでいた。 「どこまで、行くんだろうな……?」 「というより、何普通についてきてしまったんだ?」 琴菜に応えるように澪がつぶやく。 「確かに……」 「いいんじゃないかな?付いてきちゃったんだし。それにうさぎさん可愛いねぇ」 相変わらずな明るさの口調で春日が言った。瞳はぴこぴこと動く少女の耳に釘付けになっている。 そう、何で人に兎の耳が生えているのか?有り得ない状況に、ここがやはり自分達の世界ではない事を実感して頭が痛くなる。 周りを見渡してみると、決して多くはないものの彼女のように人とは違う耳が付いていたり、体の一部が違っていたりする人間が稀にいる。 しかし、みるたびに驚いているわけにもいかない。ここでは普通の事なのだろうと無理矢理納得してついて行かざるを得なかった。 日はもう隠れ始めて夜が始まろうとしている。 堅牢な石造りの街並みは日本ではテーマパーク以外で見られる物ではない。 所々で赤い土壁から覗く濃い緑で余計に場違いな気分になる。 赤っぽい漆喰の剥がれかけた土塀で囲われた狭い石畳の路地を抜け、塀の途切れたところから覗く大きな建物へ少女は動きやすそうな革のブーツで歩を進めていく。 「ようこそ、私たちの住まいへ!紹介が遅れました、私はエレン=メイ=フェアリ。 さあ、中へどうぞ!」 三人はまたしても進められるがままにその建物の中へ足を進めていった。 三人が通された一室はこざっぱりとした広めの部屋で、入ってきた扉以外に小さめの扉と幅の狭い窓があり、一角は布で仕切られていた。 大きな木の円卓が部屋の中央に置かれ、その机を囲むように様々な形の椅子が並んでいる。 「さあ、どうぞおかけになって下さい。」 エレンに勧められて、三人は近くの椅子に腰をかけた。 エレンのように三角の耳を髪の間から覗かせた女性が木のカップに冷たい水を注ぎ目の前に並べていく。 少し口に入れるのに躊躇するが、歩き詰めの体は水分を欲している。 戸惑う二人を差し置いて、春日が幸せそうに水を飲み干した。 それを見て穏やかに微笑むエレン達を見やり、二人もおずおずとコップに口をつけた。 しばらくしてルギネスが部屋に入って来た。 「さあ、先ほどの話の返事を聞かせてはくれないか?」 「はっきり言おう。オレ達には関係のないことだ。だから関わる気はない。」 澪は言う。どこまでも、決然として。 「でも、お前たちに、その『革命』とやらに関わらなければ、オレ達は元の世界に帰れないのだろう?」 と、澪は僅かに顔を曇らせて続けた。 「ああ、そうなるな……」 ルギネスは静かに答えた。 空気が張り詰めたような沈黙。少しして、ルギネスがそれを破った。 「考える時間を与えよう……あまりにも突然のことで、すぐに決断するのはきっと無理だと思う。決まるまでここに滞在してくれてかまわない。急かして……悪かった」 「有難いな、このまま野宿になるかと思っていたから」 ホッと息を吐き出すように琴菜が言った。 「今夜三人でどうするか話し合う。それでいいか?」 と澪がルギネスに言った。 「あぁ」 頷きながら、ルギネスは立ち上がる。 「そういえば、名前も聞いていなかったな……お前たちの名前は?」 「オレは澪…綾城澪だ。」 「私は龍之城琴菜。」 「私、春日!空原春日だよ!」 「レイ、コトナ、カスガ……だな。わかった。良い夜を……」 ルギネスは幾らか穏やかな表情でそう言って、部屋を出て行った。 「さあ、三人とも部屋にご案内しましょう」 いつの間にか控えていたエレンが言った。 三人はエレンに案内された部屋に入り、今後のことについてを話し始めた。 第一章 第四節 『赤い瞳の若き指導者』 簡素だが清潔な部屋の中、歩き通しの体に冷たいシーツは心地よく、軽く目を閉じる。 暫くの静寂の後、琴菜が呟いた。 「なぁ、本当にどうする?ルギネスとかいう男の話だと、協力しないと帰れないらしいが、要するにやることは戦争だろう?」 「……そうだな」 澪が答えて頷く。正直荷が重い、という空気をまといながら続ける。 「しかし、もし解決したところで本当に帰れるという保証は無い。第一、なんでオレ達なのかという説明も受けてないしな」 「打破するチカラがあるから、でしょう?」 ため息をかき消すように掛けられた言葉に振り向くと、ベッドに今までうつぶせになっていた春日がいつの間にか腰掛けてにこにことこちらを見ていた。 「……なんの、ことだ?」 澪が目を鋭くして軽く睨みつける。 「え、だってわざわざ呼ぶくらいなんだからそういうなんとかできる力があるんじゃないかなー?って」 きょとん、と首をかしげながら春日が澪に視線を合わせた。 力がある、それは事実だ。 澪は、当人も持て余すほどの『能力』を有している。時に、自己嫌悪に陥るほどの。 しかし、それならば同じく呼び出されたほかの二人にも何か力があるのだろうか。 沈黙する二人に春日が緊張感の無い声で更に語りかける。 「なんだか困ってるみたいだし、力になれることなら少しでも手伝ってみようよ。帰る為に必要なことだし、それで嬉しい人ができたら一石二鳥だよー!」 いや、無理やり呼ばれて巻き込まれただけなんだ、と突っ込みを入れる気力も無い二人に 「それに、手助けしないと帰れない。それは絶対」 笑顔のまま、確信を持った声で追い討ちをかける。 ふぅ、とため息をついて澪と琴菜が視線を交わらせた。 「……とりあえず協力するしかないか」 「ああ、元の世界に戻れるようになるまでの居住地も必要だし仕方が無い」 あきらめたような顔で決断を下した二人に眼を輝かせながら春日が近づく。 「本当に!?わーい、良かった!」 自分も巻き込まれた身でありながら、人の役に立ちたいと思えるというのはいいことなのかもしれない、と二人の手をとってぶんぶんと振り回す少女に澪は思う。 「それで、提案なんだけど!」 きっ、と急に真面目な表情になって春日が言う。 「このあちらにとって嬉しいニュースをもって今からお話に行ったら、なにかごはんくれるんじゃないかしら……!」 「……」 「……」 前言撤回。所詮人間はエゴでしか動けないのだ。 そういえば案内してもらったはいいが、食べ物はもらってなかったな、と澪はぼんやり天井を見上げた。 「じゃ、行って来るねーvv」 とりとめもなくそんなことを考えていた澪と呆然としている琴菜を残し、春日は部屋から出ていった。 「楽天的というか……」 「食い意地がはってるんだろ」 ほんの半日前に会っただけだというのに、気まずさのない沈黙。 琴菜の瞳に感じた既視感は今も変わらない。 「……なぁ」 「ん?」 「前にどっかで……」 澪の問いかけは扉を開く大きな音にかき消された。 「ルーが言ってたのって、あんたら?」 笑みを浮かべ勢いよく扉を開いた青年が二人に問いかける。 切りっぱなしの銀髪に赤い瞳。血色の良い日にやけた肌。 先ほどのルギネスと同じような服を軽く着崩している。 青年の突然の訪問に二人は言葉を失った。 「若ぁ。ダメですよ、突然女性の部屋に入るなんて」 長身である青年の背後から兎の耳が見え隠れする。 青年の後ろには大きなトレイを持ったエレンが困惑した顔で立っていた。 両手に抱えるように持っている大きなトレイには三人分のスープ皿と小さなバスケットに収められた丸いパンがのっている。 透明なスープと数種類の柔らかくなった見覚えのある野菜が暖かい湯気を立てている。添えられたパンは少し固そうにも見えたがこれも焼きたての香ばしい香りが漂っていた。 素朴な夕食は空腹を感じていた琴菜の表情をほんの少し緩めた。 「えっと、レイさん…とコトナさん…でしたよね、夕食をお持ちしましたが……カスガさんはどちらですか?」 「春日なら……ルギネスんとこに……」 「それより……そいつ、誰?」 琴菜の問いにエレンは苦笑して答える。 「不作法で申し訳ありません。こちらは、カサンドラ様。革命軍『テーヴェレ』では『若』とお呼びしてます。一応幹部なのですが……」 「ルーにやらされてるだけだよ、面倒なのにさ」 不満そうにカサンドラは付け足す。 「るー?」 「あぁ、ルギネスのこと。ちっさいころから知ってるからさ」 「ふぅん……」 「呼びにくかったらそう呼んだら?俺も『カース』で良いよ」 親しみやすいカサンドラの笑顔に琴菜はなぜかたじろぐ。 「でもルーもいきなり女三人も連れ込むとはやるなぁー」 あはははは、と楽しそうに笑うカサンドラ。 幹部だという彼もまだ若い。かなり力をもっていそうなルギネスもまた若い。 『テーヴェレ』は若年層中心の組織なのだろうか?と澪はぼんやり考える。 「召し上がらないのですか?」 エレンの微笑みから少し目をそらして澪は食欲が無いとだけ告げると窓枠に腰掛ける。 陽光の名残に照らされ映える濃紺の髪と藍色の瞳。見覚えのない色彩の中に琴菜はなぜか既視感を覚えた。 「……だから言ったろう?」 廊下からルギネスの呆れたような声が聞こえた。 カサンドラが開け放した扉から春日が踊るように飛び込んでくる。 「ごは~ん♪」 「エレン……何とかしておいてくれ」 ぐったりとした表情のルギネスも顔を覗かせた。 「カスガから話は聞いた。引き受けてくれたこと、感謝する。今夜はゆっくり休んでくれ」 それだけ言い、一瞬だけ澪に目を向けると扉から離れていった。 「……なんなんだ?」 視線だけ向けられた澪はわずかに困惑した表情を浮かべた。 第一章 第五節 翌朝、琴菜が目覚めたとき澪はすでに起き出しているらしく窓際の寝台には誰もいなかった。自分の部屋ではないところで目覚めた時点で昨日の出来事は夢ではなかったことは自覚していた。 三つ並んだ寝台の中央で眠っていた春日を叩き起こし、二人は部屋を出る。 昨日は疲れもあってよく周囲を見ることが出来ずにいたがよく眠った体はいつもの観察力を取り戻していた。 この『砦』と呼ばれている建物は普段は集会場のような使い方をされているらしく、広い部屋がいくつもあり、人が生活しているような雰囲気は薄い。 「何かあったときは周辺の住民が逃げ込めるようになってるんだ」 突然背後から声がして二人は勢いよく振り返った。 「びっくりしたぁ。えーっと、若?」 暢気な春日とは対照的に琴菜はわずかに身構えたままカサンドラを見つめる。 「そんなに警戒すんなよ、コトナ?」 「……」 無言のまま琴菜は体勢を元に戻した。 「朝飯、出来たってさ。呼びに言ったら二人ともいねーし、どうしたのかと思ったよ」 人好きのする笑みにやはり琴菜はどこか警戒するような表情を浮かべた。 「れーちゃんは?起きたらいなかったよ?」 食事と聞いて踊るようにカサンドラの後についていく春日が尋ねる。 「エレンといるよ、先に食堂に行ってる」 幅の広い階段を下り、長い廊下を抜け突き当たりの広いスペースに出る。 最初に通された広い部屋と同じような大きな円卓が置かれ、さらに奥の方から食器のぶつかる音やスープの匂いが漂う。 円卓に先に座っていたルギネスは昨夜以上にぼんやりとした視線を三人に向ける。 「……おはよう……」 少しかすれた声がさらにかすれて聞き取りにくい。 「まぁだ目、覚めてねぇの?」 カサンドラがクスクス笑いながら隣に座る。促されて琴菜と春日もルギネスをはさんだ隣に腰掛けた。当のルギネスは無言のまま湯気をたてるカップに口をつける。 「おはようございます、よく眠れましたか?」 エレンが奥から大きなトレイを持って出てくる。その後ろから、澪も姿を現した。澪の服装に琴菜は目を瞠った。 ゆったりとした立て襟の白に近い淡い青の上着に、顎のラインまで首筋を覆う白いシャツと白の長ズボン。ベルトのように腰に結ばれた髪と同じ濃紺の布の端が膝まで垂れている。 服の合わせ目は全て柔らかい革のベルトで留められ、極端に素肌を隠すようなデザインになっている。 足元は柔らかそうな皮のショートブーツ。 調理のためか短い髪の一部を後頭部で縛り、額に白地に紺のラインを縁取りした布を巻いている。 「……どうしたんだ?それ」 「洗濯するから着替えろって。お前らも食べたら着替えろよ」 言いながら澪はずいぶんと慣れた手つきでエレンと一緒に手際よく料理や食器を並べていく。六人の朝食はゆったりと始まっていた。 六人の朝食もそろそろ終わりを迎えていた。 「ふぅ、お腹いーっぱい!」 一足早く朝食を終えた春日が満足気に笑みを浮かべた。 「三倍…」 食事を終えた春日の隣りであきれたように琴菜が言葉をもらす。 「どういう胃袋してるんだ?オマエ??」 と、カサンドラも琴菜の言葉に加勢する。 「これでも、腹八分目だよ?」 きょとんとした表情で春日は答える。 「腹…八分目…」 あきれたような、見下しているような声調で琴菜がぼやいた。 「こういうヤツなんだろう…」 続けて、ほとんど食べていなかった澪が言った。 食事を終えると、それぞれ思い思いに部屋に戻っていった。 澪、琴菜、春日の三人が部屋に戻ると、2着の服がそれぞれ寝台に置かれていた。 「……これって…」 琴菜がその服に目をやり、ボソッと言った。 「わあ!可愛い服っ」 呆然とする琴菜を尻目に春日が喜びの言葉を発する。 「昨晩から着てらっしゃる服はこちらで洗いますので、代わりにそちらの服を着て下さい。」 と、後ろの方からついてきていたエレンが言った。 「わあ、これ着ていいの!」 エレンの言葉を聞いて真っ先に反応を示した春日が言った。 「はい。どうぞ。皆さんのために用意したものですから」 「これを着るのか…」 澪を見ながら琴菜が言う。 「こっち見ながら言うな…」 「さあ、どうぞ?お召し下さい」 と、エレンはニコニコしながら、その衣類を2人にすすめた。 かなり嫌そうにしていた琴菜も、エレンの笑顔におされてしぶしぶと了承する。 薄い若草色の長袖カットソーに重ねるように深い緑のリボンで合わせ目を留めるような半袖の上着。腰には足首程まで長さのある白の布を巻き、布の合わせ目から覗くしなやかな脚を覆うゆったりと裾の膨らんだ薄緑のズボンと足首までの布のブーツ。 春日にはエレンのものとよく似た二枚重ねのワンピース。草色の上のワンピースの上から、腰の辺りを黄色い布でまとめてある。 気に入ってにこにことしている春日とは対照的に、着替えてからも複雑な顔をしている琴菜。 「大丈夫、そのうち慣れるぞ…多分。」 「わー琴ちゃん可愛い~♪」 「お二人ともよくお似合いですよ」 澪の慰めとご満悦な二人の声に、琴菜はため息をついた。 「まぁ…それで、今日はきちんとした説明をしてくれるんだよな?」 「はい…今までと、これからの状況に関してルギネス様から説明があります」 軽く部屋を整えながらエレンが頷いた。
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◆再構成の剣 要TP20 攻撃後 回避UP / 物理攻撃 1 命中 95 / MaxHP 1 雷
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◆再構成のピアス Ability MaxHP 1
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第一章 第六節 『十色の光を放つ者』 「ご案内しますね」 エレンがにこやかに微笑みながら先導して廊下を歩く。 居住空間の、決して広いとは言えないながらも質素な廊下には午後の日差しが窓から差し込み、暖かい空間ができあがっている。 「あ、畑があるよ~!」 春日が窓の外を覗きながら嬉しそうに報告する。 「ええ、私も育ててるんです。すごく落ち着きますし、楽しいですよ」 エレンも嬉しそうに振り返り、自分の育てている植物のことなどについて喋りだす。 歩きながら楽しそうに話す二人と何かを考え込んでいるような澪を横目に琴菜はなんとなく窓の外を眺めながらついて歩く。 「……」 ふいにぴた、と窓の外を眺めたまま立ち止まった琴菜に気づいてエレンがふりかえる。 「どうしました?」 「いや……なんだか畑を掘り返してるのがいるなと思って…というか羽はえてる…?」 首を傾げる琴菜を跳ね除ける勢いでエレンが窓へと駆け寄る。 見下ろした視線の先には地面に突き刺さっている大きなスコップと掘り起こされた畑と、それを見下ろしているこげ茶色の髪の青年がいた。 彼の背にはまるでトンボのような青い羽が透き通った光を浴びて存在していた。 「……なっ何してるんですかジルコンさん!!!」 エレンがぴんと耳を立てながら叫ぶ。 「うわぉ?おお、エレンちゃんかいい天気だねぇ」 ジルコンと呼ばれた青年がのんびりと振り返って髪より明るい色の瞳で見上げる。普通の人間とは違う長い耳、そして彼の額には大きな…彼の名にふさわしい大きな灰色のジルコンの石が埋め込まれていた。 「何してらっしゃるんですかと聞いているんですっ!」 気のせいか長い耳の毛が逆立って見える。威嚇音が聞こえてきそうだ。 「いや、お天気がいいから畑仕事でもしようかと思ってねー」 「その畑なにも植えてないじゃないですか……」 「だからこれから植え……おや?」 エレンの後ろに見慣れない人影を認めて、羽をはためかせながら窓へと近づく。 「やぁやぁこれはどうも!君達が噂のお客様だね~」 温和そうな笑顔を浮かべながらジルコンが軽く頭を下げる。 「僕はジルコン、よろしくね~!あージルジルって呼んでくれてかまわないから!」 呆然とする琴菜に 「……別に呼ばないでもいいですからね」 エレンがため息をついてフォローを入れた。 「わ~い♪ジルジル~vv」 と何が楽しいのかはしゃぐ春日を尻目に澪はエレンに軽く話すよう促す。 「あちらは石精霊のジルコンさんです」 あっさりしすぎる説明に琴菜は首をかしげた。 「『石精霊』?」 「ルギネス様からその説明もありますから」 それだけ言うとぎこちなく笑ったエレンは先に立って歩き出す。 「ジルジル、エレンちゃんに好かれてないかも~」 窓枠にもたれて困ったように笑うジルコンに澪は軽く溜め息をついて 「その態度が気に入られない原因なんじゃないか?」 と言い捨てて歩き始める。 琴菜と春日は先にエレンの後を追っている。細く長い廊下は真っ直ぐで迷うことは無さそうだ。 「……?」 小さな声と視線を感じて澪がふり返ると表情の抜け落ちたジルコンが窓枠の外側から身を乗り出していた。 「……名前、聞いて良い?」 張り付けたような笑顔につい答えてしまう。 「……澪……」 「レイ……ちゃん?よろしくね」 仮面のような笑顔のままジルコンは窓の外に消える。春日の呼ぶ声に我に返り、澪は三人の後を追った。 通されたのは昨夜最初に入った部屋だった。入り口のホールからと裏の居住スペースからの両方に出入り口があったらしい。 室内にはすでに男が三人、円卓に腰を下ろして熱心に何か話をしていたが四人が入っていくと話をやめ立ち上がった。 「良く眠れたか?」 掠れた声でルギネスが話しかける。そういえば朝食の席で彼はあまり話さなかったなと思いながら琴菜が返す。 「まぁ、それなりに」 「そうか。……あぁ、紹介しておこう。彼はギデオン=グロス=カイザリヤ。抵抗集団……いや、革命軍と言っておこうか。『テーヴェレ』の小隊長を任せている。彼女らが昨夜話した協力者だ」 名前を紹介されて無口らしい男に三人は軽く会釈する。 ギデオンはがっしりした体格で背はルギネスより高くまたカサンドラよりは低い。黒い髪を短く刈り上げ鋭い目つきと日焼けした肌の印象的な青年だ。 彼は軽く会釈し返すとルギネスやカサンドラに何か小声で話してからホールの方へ出ていった。 「まだ軽ーく疑ってンだよなー」 カサンドラの一言で彼が昨日、最初に出迎えた老爺の隣で警戒心を露わに武器を手にしていた青年だと気付く。 「しょうがないだろうな、敏感になってるんだろ?」 琴菜が言うと春日が首を傾げながら 「なんで?」 「昨日の話、聞いてなかったのか?」 「聞いてたけど……なんで敏感になるの?私達、何も知らないよ?」 聞いてないじゃないか……と琴菜は頭を抱えた。 「カスガの為にも、もう一度最初から話しておこう」 ルギネスの長い話はそんな前置きから始まった。 第一章 第七節 『宴の主』 十一年前、現国王・ルーベルト=スファルシェ=コートレートは異母弟で前国王・クラウス=スティージェ=アーデルベルトに反旗を翻し、前国王夫妻を殺害したことから全ては始まった。 政治的能力に欠けるとされていたクラウスを異母兄、または宰相という立場から支えていたルーベルトは国民にも慕われる有能な人物だったと言うが、このクーデターでその評判を地の底まで落とした。 ルーベルトは、乾いた風の強い火を選び『王都・インテルミネイ』の風上に火を放ったのだ。その混乱に乗じてもとよりクラウスの王政に不満を抱く暴徒が非道の限りを尽くし、ルーベルトがそれを指揮していたとも言う。 この混乱は国内各地に及び、あちこちで戦乱が始まった。いわばルーベルトは国中を混乱と波乱を呼び、自らもその混乱に乗じて王位を奪ったのだ。 そして、造反から十一年たった現在でも水面下では平穏を取り戻せてはいないのだという。その理由として、現国王・ルーベルトの背後にいる陰だという。 「現国王・ルーベルトには魔物を操る能力など無かったはず。なのに今や『王城・ジェイド』を警護する兵や軍はそのほとんどが魔物兵。将校や将軍位にある者の半数以上もそうだ。だとしたら……」 「そーいうのを操れるヤツが後ろに着いたってこと」 こともなげに言うカサンドラの隣でエレンが物憂げにうつむく。 「このスティージェには太古の昔、世界中を混沌に陥れた邪神が封じられている神殿があります。『王城・ジェイド』の地下のどこか、とまでしか知られていない神殿です」 「……そこに封じられていた邪神を呼び出して味方に付けた、とでも?」 澪の言葉は沈黙によって肯定された。 「どうして封印が解けたってわかるの?」 春日の問いは背後から肯定された。 「俺が、ココにいるからね」 物語のような現実感のない話に夢中になっていた三人が慌ててふり返ると、戸口にもたれた焦げ茶の髪と明るい茶の瞳の青年が諦めと悲しさを同居させたような笑みを浮かべて立っていた。 「自己紹介、ちゃんとしとかないとね。俺はジルコン。六大神の一柱、時空司神・月露命の風信子石の最高位石精霊。通称『封印の石精霊』の一人。石精霊の本体が神殿に無いって事は、封印が解けてるってことと同義なんだ」 さっきまでの明るい口調と打って変わった重たい口調は事の重大さを物語るようだった。 「『封印の石精霊』というのは……そうだね、ある特殊な力をもつ石に宿る精霊だと今は考えてもらえばわかりやすいと思う。ジュデッカを封印できる唯一の存在だよ」 言葉を選びながら、ジルコンがゆっくりと説明する。 「わー、じゃあジルジルって凄いんだ!」 わかっているのかいないのか尊敬のまなざしでジルコンを見上げる春日の頭をぽんぽんと軽く叩きつつジルコンが苦笑する。 「まぁもちろん俺一人じゃ力は及ばなくって、六大神の分だけ……つまり俺を合わせて六人いて、やっと封印できるわけなんだけどね」 「後五人もこの街に……というか実はもう会ってたりするのか?」 琴菜がすれ違ったりした人間とは少し違う姿をした人々を思い浮かべながら問いかける。 「いや、ここには俺だけだよ、今のところ」 残念ながら、とジルコンが肩をすくめる。 「じゃあ、残りの精霊は?」 澪がその先を促した。 「……何処だろうね?」 「はい?」 「いや封印解けたときにみんな衝撃で吹っ飛んじゃって……幸い俺はこの近くに飛ばされたからよかったんだけどー」 「いやちょっと待て」 「今頃みんなは力も磨耗しちゃって動けないかも……ああ可哀相!」 「そうだよね、お腹が空いてるかもしれないね……」 「問題はそこなのか!?」 激しく身振り手ぶりを加えながら熱く喋りだすジルコンと涙ぐみながら話に聞き入る春日に琴菜が思わずツッコミを入れる。 「あっ君いいね見所あるよ!」 なんの見所だと唇を開きかけたそのその時、 「敵襲です!!魔物中心に約40、小物ばかりですが少々数が…現在西で40人余り、北門で30人弱が交戦中です!!」 ノックをする暇すらないと言うかのように激しくドアが音を立てて開き、息を切らして慌しく駆け込んできた兵士に部屋の空気が鋭いものに変わる。 「残っているものにに連絡は?」 ルギネスがパニックを起こしかけている兵士に静かに尋ねる。 「今他の者が、呼びに……」 やる気も無さそうに椅子にふんぞり返っていたカサンドラがやれやれと立ち上がる。 「くっそダルイなぁー。残ってる奴はゲオに指揮させて西。俺は北と合流してちょっと指揮してくるわ」 「いや、西には俺が行こう。ギデオンには住人の保護を第一に動いてもらってくれ」 「はっ……了解しました!」 来た時と同じように慌しく兵士が去っていく。 「大丈夫なの……?」 春日が不安げに眉根を寄せる。 「あ、大丈夫大丈夫お前らココ居ていいよ。じゃあなちょっと行ってくる」 言うが早いか身の丈ほどもある長剣を帯び、カサンドラが廊下へと消えていった。 オラ起きろお前らお仕事の時間ですよーと廊下から聞こえる大きな声が微かに部屋に響く。 それとほぼ同時にルギネスが立てかけてあった細く長い剣を手にし、無言で部屋から去って行こうとする。 「おい、なんとかなるのか?」 澪がその腕を掴んで問うた。 「ああ、よくあることだ。気にしなくていい。ただ今回は少し数が多いか……」 開け放したドアから、微かに誰かの悲鳴が、聞こえた。 ルギネスの背中が段々小さくなっていく。 呆然と見送っていると、砦の中が俄かに騒がしくなり始めた。 「避難民が来たようですね……私もお手伝いして来ます」 エレンも澪たちに軽く一礼すると、ぱたぱたと走り出してしまった。 取り残されてしまったものの外の様子が気になり、琴菜は小さな窓を開けた。 強い風が吹き、薄く赤味がかった黒髪が舞う。 風は剣のぶつかり合う音、怒号、不気味な鳴き声、大きな物の倒れる轟音、そんなものを部屋の中へ運んでくる。 一際大きな悲鳴が聞こえ、それが絶えて尚戦いの音は止まらない。 不安であると同時に、自分がこの部屋にいるしかないことが、酷く情けなかった。 第一章 第八節 『緋色の午後』 北にある小さな門。普段は美しい風景も今は戦場の凄惨さのみを伝えている。 異形の化け物……中には人に近い形をしたものもいる、その死体が転がり、むせ返るような血の匂いがあたりを覆っていた。 「あ、若様!」 左肩を負傷したまだ若い兵士がやってくる複数の影に気づき、顔をあげた。 「悪りィちょっとしか人呼べなかったわ……って大丈夫かよ抉れてんじゃん痛そー。今状況報告できる?」 一緒に来た五人程の人間を援護に向かわせ、カサンドラが彼に軽く手を振った。 「はい、さっきまで前線にいましたので。今のところ奇跡的に見た限りですが死者はいません。しかしもう斬っても斬っても出てきて……」 時々いたた、と肩を抑えながら顔を顰める。 「弓使ってくるだけの頭あるやつが居なかったのがせめてもの救いですかねー。力馬鹿ばっかです」 「あーそりゃラッキーだ。まぁ終わるのも時間の問題そうだな……ってよく見たらこっちベテランばっかじゃん。俺来なくて良かったんじゃない?」 戦闘中の人間の殆どがそれなりに腕に自信のあるものばかりなのを見て、ふとぼやく。 「あっいえ若様はともかく援軍は素直に嬉しいですよ?」 「はっはっはお前出世できないよー」 「あっ嘘っスやっぱ若様居ないと始まらないです!」 「うるせーお前なんか一生門番だ門番しかも裏門」 「ちょっ!日あたらなさそうじゃないですかそこ!」 「焼けなくていいんじゃない?さて後少しだし気合いれるか。もう報告がてら帰還して治療してもらえー」 兵士の訴えを軽く無視しながら剣を抜き、軽く深呼吸をする。数は減ってきたものの、未だに戦闘は続いている。 「お言葉に甘えてそうさせていただきます……エレンさんが担当だといいなぁ」 「うっわまた倍率高いの好きだなお前!まぁ頑張れ」 そのまま兵士の返事を待たずに戦場へと駆け出し、前線を抜けてきた狼のような魔物の首を剣で打ち払う。 獣臭い血が服と銀色の髪を染めた。 「全員生きてるかー!?後少しっぽいからさっさと終わらせて帰ろー!掃除あるけどな!」 倒れ伏した魔物に目もくれず叫ぶと、おぅ!とあちこちから声が上がる。 兵士達が熟練の技で次々と魔物を大地へと沈めていき、その度に血飛沫と砂埃が舞った。 そして魔物の姿が消え、誰もが戦闘の終わりを確信した刹那、見張り台から弓兵の声が響いた。彼女の瞳は異様なほどに大きく、白目が殆ど見当たらない。 「て、敵影確認!20ほどの魔物の群れ、到着まで予想5分!」 場の空気が凍りつく。 まじかよー、とため息をついた後、 「聞こえたとおりだ!時間がなさすぎ、今の間に怪我人は後ろ下がれ!一人マシなやつ気合で砦まで戻って報告、余裕ありそうなら誰か呼んで来い!!」 カサンドラの一声で疲弊した兵士達も呼吸を整え、可能な限り隊形を持ち直させる。怪我人の中でも比較的重傷な者が後ろへと下がった。 「全く最近どうなってるんだ……やっこさん達張り切りすぎだろ」 中年に差し掛かろうとしている屈強な兵士がぼやきながら血に塗れた大剣を捨て、予備の剣に手をかける。 「だよなー。こっちの都合も考えとけっつーの」 「いやそりゃ無理だろ」 兵士がカサンドラのむちゃくちゃな注文にツッコミを入れつつ予備の剣を抜いた。ぎらりと命を奪う切っ先が露になる。 「よっしゃお前ら優秀なんだから一匹もいれんな!気合で退かせろ!後、人手不足なんだから死ぬなよ!」 カサンドラが周りの気合を入れるように声を出すと、恩給請求しないとだめですから若もですよとどこからともなく声が上がり、違いねぇ、と笑い声が響く。 「来ます!」 弓兵の声が響いた。それに答えるように矢を放つ音が空気を裂き、再び戦場が訪れる。 一方、西の衛門。 普段から警備がやや手薄だと懸念していた箇所だ。 ルギネスは少数ながら精鋭の兵士五、六人を従えてひた走っていた。 駆けつけたとき、警護に就いていた大半は負傷しあたりには夥しい流血の跡が残っていた。 ルギネスの良く通る、少し掠れた冷ややかで鋭い声が響く。 「増援だっ!重傷者は引けっ!一匹たりとも入れるなっ!!」 あまり経験のない兵士の多い箇所だ。精鋭とはいえ負担が多いだろう。 思いながら細剣を振るう。駆け抜けながら舞うように斬る。片方だけの瞳が鋭く光る。 脚を止めたときには周囲に血の雨が降った。 どう見ても状況は悪い。血で靄のかかる門の付近では明らかにこちらの兵士の方が分が悪い。 軽く溜め息をついて、激戦となっている方へ歩を進める。 時折襲いかかってくる様々な姿の魔物をいとも簡単に切り捨てていく。右側からの攻撃に少し遅れるのは眼帯のせいだろうか。 「ルギネス様っ!」 全身に血を浴びたような若い兵士が駆け寄る。 「状況は?」 「幸いにも死者は……ただ突破されるのは時間の問題かと……」 言葉を聞きながらルギネスは無言で戦場を眺める。凍てつく片方の視線だけで人が殺せそうだ。冷たく立ち上る殺気に側に立つ若い兵士も後ずさる。 「お前に怪我は?」 言葉もなく首を振る兵士に冷たく命じる。 「砦に戻れ。エレンに動ける者を連れて来いと伝えろ。手が空けば来るようカースに伝令を出せ。……行けっ!!」 弾かれるように兵士は駆け出す。その背を見送ることなく、ルギネスは戦場に向かった。既に撃ち漏らした何匹かの魔物が町へ向かって走っていた。 「負傷者は奥へっ!救護班は手当を、武器を持てる方は警護に回って下さいっ」 エレンの細く、しかし良く通る澄みきった声が喧噪の中で響く。 か弱く華奢な彼女の手には、身の丈より長い革製の鞭が握られていた。 「エレン様も奥へっ」 真っ白い服を怪我人の血で汚した女性が駆け寄る。あまりの怪我人の多さにパニック寸前にまで陥っている。 「私も警護に回ります。あらゆる方に手伝って頂いて下さい」 柔らかく押し戻して空を仰ぐ。覆い被さってくる影に鋭い一撃を見舞うと紅い雨が薄桃色の髪に散った。 喧噪に怒号と悲鳴が混ざり始めていた。 「こっちにまで来たらしいな」 「大丈夫なのかな?」 窓辺に立ち悲鳴の混ざり始めた屋外を眺める琴菜の表情に緊張が走る。 不安げな春日を元気付けるようにジルコンは軽く糖蜜色の髪を撫でた。 「エレンちゃんも結構強いからね、でもここも避難してくる人で一杯になっちゃうかな」 言いながら辺りを見渡すと騒然とした空気が押し寄せていた。大きな音を立てて扉が開く。肩を抉られた兵士がフラフラしながら入ってきた。 「……あなた方は?」 「う~ん、ルー君のお客さんで~、一応戦力?」 のほほんと答えるジルコンの言葉に兵士は顔を輝かせた。 「戦力ですか!?じゃぁ早く外へっエレンさんを手伝ってあげて下さいっ」 「……え?」 「手伝うって……今戦ってるのかっ!?」 ぎょっとして窓に飛びついた途端、建物の極近くで血煙が上がる。それさえ切り裂くように紐状の物が舞う。 ドゥ、と大きな物が崩れ落ちる音と共に血煙の間から見えたのは、まだらに紅く染まった長い薄桃の髪と兎の耳。か細い腕によって操られる長大な鞭が周囲に群がる魔物を打ち倒していく。 「……手伝い、いるのか?」 「数が多いしな……」 呆然としながら澪と琴菜が呟く。 突然背後から悲鳴が上がる。明らかに室内からの声だ。 「入られたっ!?」 兵士が蒼白になって振り返る。 「負傷者や女子供しかいないのにっ」 肩の傷に顔を歪めながら走り出そうとする兵士を琴菜が引き留める。 「怪我人が役にたつはず無いだろ、私が行く」 「琴菜?」 澪が訝しげに声をかける。 「このままいてもやられるだけだろ」 軽く言って軽く腰に手を当てると、一瞬我に返ったように腰に当てた左手を見下ろした。 「剣なら、隣の部屋に予備があったよね」 にっこりとジルコンが呆気にとられている兵士に促す。 兵士は弾かれるように部屋に三つある扉の内、出入り口以外の扉に飛びつくようにしてそれを開けた。 雑然と並べられた膨大な武具。刀身が鈍い光を放ちながら使い手を待っているようだった。 第一章 第九節 『緋色の午後 2』 膨大な武具に圧倒されつつ、日本刀のような片刃の剣を選び抜き悲鳴の聞こえた方へ琴菜が走り出した後、残された春日はわずかに身長の高い澪を見つめる。 「……どうしよう?」 「行かないの?」 ジルコンの柔らかく見つめる視線に屈するように澪は深い溜め息をついた。 「あいつの言ってることは納得出来るけどな、何でこんなことになったんだよ」 諦めたかのように、でも意志を持って武器庫へ向かう。 片隅に置いてある弓に弦を張り、探せるだけの矢を矢筒に入れる。 不安げな兵士に、 「弓は、得意なんだ」 と言い捨て琴菜の走っていった方向とは逆方向の窓辺に立つとそのまま矢を番える。 こちらに気付き走り寄る魔物に静かに狙いを定めると、鋭い音と共に矢を緊張から解き放つ。轟音と共に崩れ落ちる巨体が地を揺るがす。 激しい攻防が終局に近づいていた。 手に馴染まない刀を握り締めて琴菜は悲鳴の元へと走った。 突き当たりの廊下、砕け散った窓ガラス。 姿形だけで言えばネズミのような、しかしそれにしては大きすぎる獣が歯をむき出して目の前の食料に威嚇する。 動けない怪我人、震えながら庇うように明らかに戦闘用ではない小さなナイフを構える子供。 「伏せろ!」 考えるより先に叫び、勢いをつけて駆け寄る。 その声に弾かれる様に怪我人が子供を突き飛ばすかのように自らの体で押し倒し、姿勢を低くする。 獣が新たな食料の登場に驚いたように一瞬硬直した。 その隙を見逃さず、一気に間合いを詰め獣の眉間めがけて刀を振るう。 嫌な手ごたえと共に、断末魔の叫びを上げて獣は悶えた。 もう一度、獣の首筋めがけて刀を振るう。刀の動きに答えるように赤が軌跡を描き、獣はゆっくりと動きを止めた。 呆然とその様子を眼に映していた怪我人が、我に返ったかのように同様にへたりこんだ子供を抱きしめながら何度も礼を言う。 「ありがと……ございます……本当に、よかった」 いや、無事でよかったとつぶやいて、怪我人を助け起こそうとし、自分の手が獣の血でぬれている事に気づいて思わず手を引っ込めた。 ぬちゃり、と粘っこい不快な感触と匂いがする。 未だその死体から流れる血は床の汚れを広げ続けていた。 騒ぎは終わりを迎えたようだ。悲鳴も争いの音ももう聞こえない。 すぐに駆けつけた澪や他の兵士達に感謝と慰労をされ、渡された布で手と顔を拭った。 「琴菜はそんなのが使えるんだな、しかも慣れてないか?」 なんとなく手放さずにいた刀を見て澪が意外そうに声をかける。 「あ、ああ……ちょっと事情があってな」 言葉を濁して誤魔化し、ふと壊れた窓の外を見た。 人々の手で戦闘の後片付けが始まっていた。 建物の中では怪我人達の治療が続いている。微かな呻き声と、消毒液の匂いがここまで届いている。 しばらくそれを見やっていた琴菜がふと呟いた。 「でも、そんな事情があるのは自分くらいだと思っていた。こんな世界があるなんて知らなかったよ」 確かに戦争の続く地域は自分達の世界にもある。しかし日本で生まれ育った琴菜はそんな場所へ行った事はなかったし、それは人と人との戦いであり、こんな化け物は登場しない。 「そんなのオレだって知る由もなかったよ……ここではこれが、本当に日常なんだな」 複雑そうな色を瞳に浮かべて澪が答えた。 皆、慣れすぎているのだ。 どんな幼い子供でも、死体の処理に、傷の手当に。 「つらいね」 何時の間にか背後に現れた春日がぽつりと唇を開いた。 その横にいたジルコンが、悲しげな瞳で澪と琴菜を見つめていた。 「……砦に侵入を許した?」 「ハァ!?」 戦闘を終え、ようやく合流して警備の穴や今後について言葉を交わしていた二人に、悪い報告がもたらされた。 一瞬にして殺気立つルギネスと信じられないというように声を上げるカサンドラにギデオンが土下座せんばかりに頭を下げる。 「申し訳ございません!」 顔にはありありと自責の念を浮かべ、下唇を血が出そうなほどに噛みしめている。 「……許す、とは言えないがこちらにも落ち度はある。今回は、数が多すぎた。こちらで討ち漏らした数も少なくない」 苦虫を噛み潰したかのような顔でルギネスが告げる。 「それに明らかに配置ミスもあるしな。でも、砦の中は安全だってもう皆思えなくなっちまってるだろうなぁ……で、住民は何人死んだの?」 カサンドラの問いかけにギデオンが顔を上げ、一度自分を落ち着かせるように軽く息を吸った後に口を開いた。 「ほんとうに、ほんとうに奇跡的に……ゼロです」 その報告に二人が眼を丸くする。 「それはないだろう」 ルギネスの声に、ギデオンが首を振る。 「いいえ、重傷者は出ましたが……本当なんです。その、ルギネス様のお連れになった方が……進入してきた魔物を討ってくださったそうで」 「え、マジで?」 思わず驚きの声を上げ、ルギネスとカサンドラが目を思わず見合わせた。 「お前の連れてきたのなによ。やるじゃん」 そうだそうだと言わんばかりにギデオンもルギネスに目線を向ける。 「……そのうち、話す」 不審と興味の入り混じった二人の顔を交互に見た後、ルギネスが誤魔化すように視線をはずした。 第一章 第十節 「どうしてあんな無茶なことをしたんですかっ!」 薄桃の髪を返り血でまだらに紅く染めたエレンが救急箱を抱えて駆け寄ってくる。 元々大きい瞳が驚愕でさらに大きく見開かれて涙目になっている。 「あ……えっと……その…………」 あまりの剣幕に琴菜がオロオロとしているとその横で苦笑しながらジルコンがなだめ始める。 「まぁまぁ、こうして無事だったんだし。そんなに怒らないであげてよ。それに、ルー君は最初からこういう時、手伝ってもらうために三人をここに招いたんでしょ?」 「……確かに、そうですけど……でも、あまり無茶はなさらないで下さいね」 ペタン、と長い耳を伏せ涙目のまま上目遣いに言われると、反論があっても言い出せない雰囲気になる。 後方から援護射撃だけしていた澪も同じように怒られたらしくタジタジといった風情だった。 エレンが怪我人の手当に呼ばれ、琴菜が女性に風呂を勧められて立ち去った後、所在なく立ち尽くしていた春日が人とすれ違うたびに少し首を傾げながら歩くルギネスを見つけた。 「ルギネスさーんっ」 背の低い春日が跳ねるように手を振る。澪とジルコンも春日が呼ぶ声でルギネスが歩いているのに気付いた。 ルギネスも視線をこちらに向けるがやはり少し首を傾げる。少し近づいてから軽く頷いたように見えた。 「……砦に侵入した魔物を倒したそうだが……?」 言ってから一人少ないことに気付いたようだ。 「琴菜だよ、今は風呂」 視線で問いかけるので澪が答える。 「……そう、か。砦の中から矢を放った人物がいたそうだが?」 「あ、それレイちゃん。百発百中って感じ?トドメ刺したのはそばにいた人達だけど」 「……弓道部の助っ人、やったことあるから」 ジルコンの言葉に素っ気なく言うと、澪はそれ以上何も言わずに弓と矢筒を掴んで雑踏の中に紛れ込んだ。 その少し後。浴びた返り血を拭うのもおざなりに、疲れた体に鞭打って怪我人の救護に向かったエレンは休む暇もなく働いていた。 広間は怪我人と看護する人間、薬をもらいに来る人々でごったがえしている。 多すぎる怪我人の呻きに一瞬顔を悲しげに曇らせるが、不安を与える事は避けたいとすぐに笑顔を浮かべ、怪我人達を励まし手当てをする。 そしてそれもようやく一段落を迎え、廊下で救護箱の薬を確かめながら少し休憩しているとふいに背後から声が掛かった。 「よ、おつかれさーん。相変わらずの女王様っぷりだったみたいだな」 「若……ご無事で何よりです、が。その言い方やめてくださいって言ってるじゃないですか」 同じく気持ち程度に血を拭っただけのカサンドラが、救護箱の近くにおいてあった水の入った筒を手に取った。 彼も身を整える時間もなかったのだろう、髪も瞳と同じ赤に染まっている。 「いや褒めてるんだって。おかげでかなり助かったしかっこいーじゃん」 「……そうですか。ならご期待に答えて今お見せしましょうか?」 にっこりと微笑みながら鞭を手に取り、軽く振るう。ぴし、と風を切るいい音がした。 「いや冗談ですすみません。つーかそれは俺じゃなくて隊員の皆様にやってあげてください喜ぶから」 冷や汗をにじませて降参、とカサンドラが手を上げる。 「……隊員?」 いぶかしげにエレンが眉根を寄せる。 兵卒のなかに密かに存在する『エレン様の鞭でうたれ隊』の皆さんです。 ……とはさすがに言えず、もう一度ゴメンナサイ、と謝っておく。 ここで本人にその存在を知られたら自分ひとりがしばかれるだけではすまなくなるもんなぁ、と隊員達の顔を思い浮かべてみる。ああ馬鹿ばっかりじゃん庇わなくても別にいいかな。 そんなことをとりとめもなく考えていたカサンドラのことを誤魔化されませんとばかりにじっと兎耳をたてて睨んでいたエレンが、急に何かに気づいたように慌てて踵を返して走り出した。 わけもわからずそれを見送り、同時に喉の渇きを思い出す。 「よくわかんないけど助かった?」 幸運に感謝しながら本来の目的だった水に口をつけようとした瞬間。 ばしゃーん! 派手な音を立てて頭から水をぶっかけられた。その音に周りの人間も驚いて視線を集める。 視線の先にはずぶ濡れになっている自分達の若き長と、空の桶を持って息を弾ませる兎耳の少女。 「……なっ、何すんだコラ!こんなにいらねーんだよ!!これ何新手のプレイなの!?俺ノーマルだから嬉しくねーし!」 驚いてよくわからないことを口走りながら食って掛かるカサンドラの鼻先に、エレンがびしっと人差し指を突きつける。 「若、お風呂!」 「はぁ?」 脈絡のない台詞にあっけにとられているカサンドラに、慌てた表情のエレンが続ける。 「髪の毛!洗ってないじゃないですか!すぐ洗わないととれませんよって言ったでしょう!」 未だによくわからず憮然としたままのカサンドラをよそに、周りの人間が気づきだす。 「あ、そっか若は髪の毛白いから……」 「しろくねぇし!銀言え銀!」 「この前もほったらかしにしてて色変わっちゃったんですよねそういえば」 うんうんと頷く人々に、ようやく記憶が戻ってくる。 そういえば洗うのが遅れたせいか髪質のせいかうまく血の色が落ちず、まだらにうす赤いままの髪の毛で一週間ほどすごしたことがあった。 「若にこの前みたいにピンクマーブルになられたら困るんです!」 ぐっと拳を握り締めて力説するエレン。 「確かに若みたいなでかいのがそんな色やだなぁ」 「可愛くないっすよね」 「自分達のトップがピンクマーブルとか……あんときなさけなくて」 「あったあった。あれはちょっとなぁ……」 しみじみと思い出してため息を付く人々。 「あー……」 そういえば自分はあまり気にしていなかったけれど大不評だったな、とぼんやりと血と水に濡れた髪をつまむ。 「ほらぼさっとしてないでください!さっさと洗いにいく!ほらほらほら!」 石鹸をべし、と投げつけてエレンがせかす。 「今回はキレーに染まるかもしれないしもういいじゃん後で。そりゃ早くさっぱりしたいけどほら俺まだ仕事残って」 「だめです!綺麗に染まるわけありません!すみません誰か池に落としてでもいいのでつれてって洗ってください!」 エレンがくるりと振り向くと、頼みごとをされてたことが嬉しかったのか、近くにいた若い兵士達がカサンドラの腕をつかみ、スキップでひったてていく。 「オイコラんなことしたら溺れるだろ!殺す気か!」 「死にませんって死にませんって」 いい笑顔をした兵士達にずるずると引きずられながら、髪の毛を黒かいっそもう赤に染めちゃおうかなぁ、とカサンドラは諦めつつため息をついた。
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第一章 第十一節 『願うこと、祈ること。信じること、諦めること。』 澪が眺めているのは、この世界では極々当たり前の日常らしい。 どこにいたのかというくらい多くの人々が、それぞれ自分に出来ることをやっている。 穏やかな春の日差しの下、血生臭い狂宴の後片付けが着々と進んでいく。 破壊された家の残骸を片付け始める少年達。鋭い爪に抉られた若い兵士の傷に涙を浮かべながら、それでもその出血を止めようとする少女。 夫婦なのだろう、互いの無事を喜び合う男女。幼い我が子の怪我に狼狽する両親。 瓦礫の下から助け出された老夫婦。放心したように座り込む女性の目の前で瓦礫を掘り返す青年。 それでもあちこちで歓声が上がる。 石畳の道から血の跡が流されていく。空気に残る錆びついた血の匂いは薄まらない。 雑踏の隅にしゃがみ込んで、目の前を流れる人並みを眺める。 何をしたらいいのか、分からない。なぜここにいるのかすら、分からないのだ。 分からない事が情けなくて、やるせなくて、緩い日の光で全身の力が流れ出ていくようだ。使い方も分からない、そんな力なら。このまま大気に解けてしまえば良いのに。 片膝を抱えて座り込む。額にかかる細く硬い髪を指に絡ませて目を閉じると、能面のように無表情になった。 呼吸をするたびに、胸の中が血で染まっていくように感じる。 「……ぶ?だいじょうぶ?」 すぐそばで聞こえた幼い少年の声に我に返る。目を開けると明るい太陽の光に貫かれそうだった。 「きぶん悪いの?きゅうごしょ行く?動けないの?」 髪の間からのぞく楕円形の耳が頬の辺りまで垂れ下がっている。大きく黒目がちな漆黒の瞳。紺色の瞳孔は澄み切っていて吸い込まれそうなほどだ。髪や耳と同じ茶色の尻尾が心配そうに地面を掃いている。小さな身体は華奢で、それでもしなやかな印象を与えた。 「……大丈夫だ」 タレ気味の目を強調するように茶色の眉を八の字にしてオロオロする少年に言ってやると、少し安心したような顔をして澪の隣に脚を投げ出して座り込んだ。 「今日は、町の中まで魔物が入り込んできたから……血の匂いがきついね」 澪と同じように雑踏に目を向けながら少年は独り言のように呟いた。 その雑踏の向こうから囃し声と共に大きな声が聞こえた。 「……れるって!わかったからっ風呂入るから池はイヤだっ!!」 「若様だっ。戦闘の後はいつもだね」 クスクス笑いながら少年は声のする方へ目を向ける。つられるように澪もそっちを見ると、周りの人より頭一つ分大きいカサンドラの返り血にまだらに紅く染まった白銀の髪が見えた。 「……これが、日常……」 呟くような澪の言葉を、少年は聞いていたらしい。 「……そうだよ。この日常を守る為に、戦ってるんだ」 最初の印象より遙かに大人びた、犬の獣人の少年がそこにいた。 「――――……そうか」 何故だか居た堪れなくなって、澪は視線を落とした。濃紺の髪が表情を隠す。 そんな澪に慌てたかのように少年が明るく声を出す。 「うん、信じてるから!いつかもっと平和になって、魔物なんてこなくなるって。だから頑張れるんだよ」 誘われるように顔を上げる。こんな状況でも人を気遣うことが出来る。本当に強い、いい子だ。 そうして今の言葉に嘘偽りはないのだろう。少年はこんなにも平和を願い、信じている。 「……ああ、きっとそんな日が来るよ」 少なくともそう祈ろう、と心から澪は思った。 その声にぴくり、と小さく耳を動かした少年は嬉しそうに破顔し、体重を感じさせない軽やかな動きで立ち上がった。 「さてっと!そろそろいかなくっちゃ。またお話してね!」 たたたと駆け出しながら、澪に手を振る。 そんな少年にぎこちなく手を振りかえし、自分もそろそろ戻ろうかと立ち上がると小さく伸びをした。 気づけば、もう血の匂いがあまり気にならない。 あの少年にお礼を言うべきだったなと今更に気づく。せめて名前だけでも聞いておくのだったと後悔しながら、町並に背を向けた。 少年が走り去った道を、優しい風が撫ぜている。 砦の中をあてがわれた部屋に向かって早足で歩いていると、割れた窓の前で思案する琴菜の姿が見えた。 洗い立ての髪はしっかりと水分を切られ、それでも何時もより深い色をたたえている。服をぬらさないようにと肩にはタオルがかけられていた。 「何してるんだ?」 澪が静かに声をかける。琴菜は目線を窓に固定したままだ。 砕け散ったガラスは片付けられているものの、窓には未だ大きな穴が開いている。 「この窓、なんとかしたいなと思って……自分が何も出来ないのが……来たばかりなのだからしょうがないんだけれど、なんだか情けなくてな」 なんとなく拗ねたような表情の琴菜に、澪が思わず吹き出しそうになる。 「なんだ?」 琴菜が訝しげに尋ねた。 「いや、なんでもない。どうしたらいいか聞いてみよう。答えてもらえなかったりしたら、勝手に布でもはっておいてやれ」 不安を感じていたのが自分だけでなかったことにほっとする。琴菜もそれを感じたのではないだろうか。 先程より明らかに穏やかになった澪の表情に、琴菜も頬を緩める。 「そうだな、やれることから勝手にやってしまうか」 第一章 第十二節 とりあえず一度戻ろうと部屋に向かう。ノブに手をかけると、微かに開いたドアから声が漏れてきた。 「――――…から、――…と――……」 遠慮なくそのままドアを開けると、なにやら話し込んでいたらしいジルコンと春日がこちらを振り返った。 「れーちゃんにことちゃん!おかえりなさい!」 一瞬驚いたように二人を見た後、嬉しそうに春日が駆け寄ってくる。 「ただいま、ってお前らあれからずっと喋ってたのか?」 呆れたように琴菜がそれを見やった。 「一回お外にお片付けのお手伝いに行ったんだけど……危なっかしいからお部屋帰ってなさいって」 勢いに任せて澪に抱きついたまま、しゅんと春日が眉尻を下げる。 「……あれはねー怖いねーちょっとねー」 苦笑いをしてジルコンが言葉を濁す。よっぽどだったのだろう。 「一体どんな動きをしていたんだ……」 なんとなく想像がつくようなつかないような、と考え込む二人に、ジルコンが声をかける。 「そうだ、ルー君かカース君見なかったかい?エレンちゃんでもいいんだけど」 「カースなら町で見かけたが……何かあったのか?」 されるがままに抱きつかれていた澪の質問に、にっこりとジルコンが微笑む。それにつられるように春日もそうだそうだ、と嬉しそうに笑った。 「カスガちゃんには今話したんだけど……実は、俺以外の石精霊の居場所、一人だけだけどわかったんだ。しかもかなり近いよ」 ねー、と楽しそうに人差し指を合わせる二人。 「「え?」」 琴菜と澪が声をハモらせて目を見開いた。 「お前、前は解らないとか言ってなかったか?」 「それがさー、今までいまいちわからなかったんだけど、なんだか急に感じられるようになってきてね」 事も無げにいうジルコンに澪が反発する。 「そんなアバウトなもんなのか?」 「そんなアバウトなもんだよ、きっと。ああ、でも一つ今までと変わった事と言えば……異世界の助っ人さんが来てくれたことかな?風向きが変わったのかもしれない」 にっ、とジルコンが唇の端をあげる。 「……そんなことで、変わるのか?オレ達なにもしてないぞ?」 「わからないけど、俺は感謝してるよ」 不敵で、それでも優しさを感じる笑顔のままの彼に、なんとなくたじろいて澪が口を噤む。 「で、その石精霊……は結局どこにいるんだ?」 それをフォローするように琴菜が話を続けた。 「他の人が揃ったら話すよ。君達地理に明るくないでしょ?」 それもそうだ、と頷きかけた瞬間、部屋に軽いノックの音が響いた。 「ナイスタイミングだね、どうぞー」 ジルコンが楽しそうに返答し、扉が開いた。 「入るぞーってあれ?ルーはぁ??」 暢気に入ってきたのは切りっぱなしの髪を真っ白(「しろいうなっ銀だっ!!」とは本人談)に戻るまでしっかり洗わされたカサンドラだった。拭き切れていない髪から雫がパタパタと肩口に落ちている。 「あ、カース君。ピンクマーブルは免れたんだ?」 「エレンに池に落としてでも白にするってホントにやられかけた」 「「「ピンクマーブル???」」」 「いずれ話してあげるよ~♪」 「で、ルーは??」 カサンドラは拭き切れていない頭を犬か猫のようにふって水気を飛ばそうとしているらしい。 「戸口をふさぐな、水を飛ばすな、ちゃんと拭け」 べしっと振り向いたカサンドラの顔面にタオルらしい布の塊を投げつけながらルギネスが入ってくる。 「怪我人も命が危ない、といえる者はいなかったようだ。警備の穴を埋めて、住民を落ち着かせてからでないと出発できそうにないな」 誰とも無く呟く。 「あ、そのことなんだけどね~。地図ちょうだい?」 唐突に言うジルコンに怪訝な顔も見せずに住居部分へ通じるドアへ向かう。 「えぇ?わかんな~いとか言ってたのお前だろ~?」 投げつけられたタオルで髪を乱暴に拭いながらカサンドラがジルコンに文句を言うと、言われたジルコンも飄々と答える。 「風向き変わったんだもん。分かっちゃった~♪めんどくさいとか言っても聞いてもらえないと思うよ~」 きゃんきゃんと言い合っている二人を無視するようにルギネスは出ていって、しばらくして小さく畳まれた紙を持って入ってきた。未だにじゃれ合うような会話を続けていた二人をさらに無視する。 「エレンを呼んできてくれ、サーニとガーナは戻ってないな?」 ホールに続く扉のすぐそばにいたらしい青年を呼び止めてルギネスが何か確認するとそのまま円卓に手にしていた紙を広げてみせる。 「飽きたら話がまとまらなくなるから今の内に話すぞ」 「飽きたら?」 「あの二人のことか?」 「そうだろうな。これは……地図か?」 円卓に広げられた大きな紙は縁が茶色く日に灼けて細かくうねるような曲線がおおざっぱに書いてある。 何か文字のような物が所々に書いてあるがどう読むのかは分からなかった。 「この文字は読めるか?」 「……見たことが無い」 「後で読み方を教える。表音文字だからすぐ覚えられるだろう。今いる『ヴェルトロ』はここだ」 ルギネスが指さすところには薄い朱色で印が付けられている。山に囲まれた地方都市らしい。 「今の『スティージェ』にある主な都市はいくつかある。ここは『中央都市・アエネース』、ここが『王都城下・シモニア』だ。『商業都市・ルカーヌス』、『最南の都市・ベタニヤ』、『最北の街・アリスタルコ』、『自治都市・ガイオ』。そして、この国のほぼ中央に位置するのが『王都・インテルミネイ』」 ここだ、といって指さす。それぞれ小さな丸が位置を表していて、それらの印を太い線が繋いでいる。 「主な都市は『インテルミネイ』を中心にしてそれぞれ街道で繋がっている。山や森を避けるように街道は通っているから少し遠回りになるな。でも街道沿いには小さな町や村が点在してるから野宿を避けたいならこの街道を行く方が良い」 ここまで説明したところで、身体をしっかり洗ってきたらしいエレンが小走りに駆け込んできた。 「すみません、遅くなりました。……若?ジルコンさん?」 「「……は~い」」 やっと静かになった室内で地図を囲み詳しい話が始まった。 第一章 第十三節 「え~っと、レイちゃん達が来てくれたおかげで『風向き』みたいなのが変わったんだと思うんだ。どの石精霊かまではちょっとわかんないけど、少なくとも一人は居場所が分かったよ」 そこまで言うとジルコンは、今いる『ヴェルトロ』を指さしそのまま斜め上、つまり北東の方向へ指を動かす。紙面上で止まった指先は淡い青に塗られた比較的広い位置を指さしていた。 「……『ベルギリウス』か?」 「ここ、何?」 きょとんとした瞳で春日がカサンドラを見上げる。 「湖。んなとこにいんの?」 少し顔をしかめてカサンドラが言う。 「間違いないよ、ここの中♪」 「「「「「……中?」」」」」 「うん、中vv」 にっこりと笑って言うジルコンと嬉しげに頷く春日は至極無邪気だった。 「中って中って……中ぁ!?」 一時恐慌状態に陥ったカサンドラは放って置かれることになっているらしい。 「とりあえず、ここまでの交通手段を考えないとな。……馬か、チェンバーは乗れるか?」 「……乗馬経験は無いぞ?」 「馬……乗れない……」 「コトナとカスガは乗れないのか……レイは?」 「乗れるぞ、その『チェンバー』とやらは見たことも無いが」 「「えっ!?」」 「……乗れるんですか?」 平然と言う澪に琴菜と春日は驚きの声を上げる。エレンも恐る恐るといった風情で聞き返す。 「同じ国から呼ばれたんじゃ無いのか?」 恐慌状態からいつの間にか戻ってきていたらしいカサンドラが問いかける。 「……お前、私とは京都の町中ですれ違いかけたんだよな?」 「あぁ……そうだったな」 澪の無表情な顔にわずかに怪訝な色が浮かび始める。 「……それがどうか……言ってなかったか?」 「何を?」 「俺の育ったトコ、京都じゃないって」 ケロリと言ってのけた澪の言葉に唖然としていたのは琴菜だけだった。 「北海道、ねぇ……」 翌朝、厩に案内されまずは練習だと連れてこられた広い空き地。 馬を与えられた途端いきなり体重を感じさせない動きでひらりと馬にまたがり、悠々と乗りこなしだした澪を驚きと共に眺めながら琴菜がなるほど、と呟いた。 「お、アイツ知らない人間振り落とすの大好きなのにすげーなー。上手い」 琴菜に手綱を渡しながらカサンドラが感心したように澪を見やった。 乗馬経験の無い琴菜でも綺麗な乗り方だと思う。乗りなれているのだろう。 「……そんな気性の荒い馬をいきなり渡したのか」 「馬たりねーんだよマジで。シャルロッテはまぁ大人しいから大丈夫だろ。」 悪気のない声で言い放つカサンドラに琴菜がため息をつく。 「えらく豪華な名前だな」 呆れ顔で傍らの馬を見上げる。しかし、その名に相応しい、上品で優しい目をした馬だと思った。 「ああ、厩番の趣味なんだトニーっての本人は。ついでにあれがエリザベスであれがアイリーンであれが」 「もういい」 「ちなみにオスでもそういう名前」 「……そうなのか」 こいつはどちらだろう、と琴菜が見上げるとシャルロッテが優しげな栗色の瞳で不思議そうに見返した。 「そうそう体は水平でーうん筋いいじゃん」 はじめこそ戸惑ったものの、しばらく乗っていると段々コツがつかめてくる。 上から見える馬の毛並みはつやつやとしていて大事に育てられているのが解った。 「へぇ、初めてなのにもうそこまで乗れるのか」 馬に乗ったまま、澪が軽快な動作で近づいてくる。 「ああ、思ったより難しいけどなかなか面白いな」 馬の頸を撫でると、温かい体温が伝わってくる。キライではない感覚だ。 「慣れるともっと爽快になるぞ」 穏やかに言う澪も心なしか微笑んだように見える。 「レイも笑うんだな~」 のほほんと言うカサンドラを無視して 「……あっちは慣れる以前の問題だがな」 澪は半分目を閉じるようにして三人から少し離れた所を眺める。 自分のことで精一杯だった琴菜がその目線を追うと、その先には悪戦苦闘する春日とルギネスがいた。 春日に宛われたのは厩番の名付けたところのクリスティーナ。気性が穏やかで戦闘に向かないともっぱら移動に使われている小柄な栗毛の馬だ。 「いい加減乗ってくれないか?」 「……だって落ちちゃうんだもん」 必要な馬具は全て付けているし、ルギネスがそばで補助をしているにも関わらず、春日はクリスティーナに乗ることさえ出来ずにいるらしい。 練習は同時に始めたはずだから、小一時間は乗ろうとしてずり落ち、乗ろうとして転がりを繰り返しているのだ。 「……ルーのヤツ、ずっと付き合ってンのか?」 すげー根性、とカサンドラが呆れたように呟く。 「転がり落ちた時に何度か馬に踏まれかけてたぞ、ルギネスが慌てて避けさせてたけど」 澪が言ってる間にも、再度挑戦した春日はルギネスの真上に転落している。 「乗ることから、出来てないって事か?」 「乗馬姿勢がどう、って話じゃないな」 言いながら澪は身軽な動作で灰色がかったその馬の背から地上に降り立った。 真似して降りようとする琴菜にまだ練習、とカサンドラが声をかける。 「アントワネット……だっけ?あまり調教してないみたいだな、悪い馬じゃ無さそうだけど」 やや目つきの鋭いアントワネットの頬の辺りを撫でながら澪はシャルロッテの手綱を引くカサンドラに厩番の居場所を聞いている。 少し離れた所から、ようやっとその背に乗り想像以上の高さに春日が上げた歓声が聞こえてきた。 第一章 第十四節 忙しいらしい彼らが長く居れる筈もなく、ルギネスとカサンドラが兵士に呼ばれて退席した後は自然と澪が指南役になり、ゆっくりと時間が過ぎていった。 春の風と暖かな草の匂いのする風。 陽光に僅かに赤く反射する黒髪を靡かせて琴菜は目を閉じてそれを感じる。 あんな血なまぐさいことがあったとは思えない穏やかさだ。 日が落ちる前には春日が辛うじて、琴菜はそれなりに乗りこなせるようになっていた。 馬も人もさすがに疲れ、世界を朱色が染めゆく中で澪と琴菜は風景を眺めながら座っていた。 前とは違う、赤く美しい世界。 春日はまだ興味深々に馬と戯れている。 元気だなぁと澪が僅かに苦笑する。 「しかし、拉致されてきた異世界で呑気に乗馬体験とはなぁ」 呆れた声で琴菜がため息をつく。 「ちょっと考えられないな」 夕日を見据えながら澪も頷いた。 「澪は私達の世界でも乗馬してたんだろう?ここの馬との違いってやっぱりあるのか?」 「うーん、こちらの馬の方が少し小柄で逞しいと思うが……際立った違いはないな」 オレンジ色の光を受けしなやかに走る馬は、確かに琴菜の目からも自分達の世界の馬と変わらないように見えた。 「出してもらった料理も普通というか、あっちと似たような野菜もあったしな。完全に一緒ではないんだけれど……この世界って、なんなんだろうな」 「俺も考えてはいるが……よくわからない」 今まで生きていた世界ととてもよく似た、違う世界。 物思いに沈みかけた二人の後ろから人の気配がし、人影を認めた春日が嬉しそうに手を振って駆け出した。 振り返ると兎耳の少女が夕日を受けて穏やかに微笑んでいる。 「エレンちゃんだー!どうしたの?ご飯?」 尻尾があったなら確実にぱたぱたふってるであろう表情と軽やかな動作で春日がエレンの手を握る。 『エレン=ご飯くれる人』の公式がすでに出来上がっているのか物凄い懐き様だ。 「ええ、みなさんお疲れ様です」 わーい、とさらにテンションをあげる春日をなだめながら草を払って自分の方へとやってくる澪と琴菜にエレンが軽く会釈する。 「すまないな、何からなにまでしてもらって……もしよければ次からは手伝う」 琴菜がすまなそうに言う。 「お客様のお手を煩わせるわけにも……でも澪さんもお料理お上手でしたし頼もしいですね、次からは少しお願いします」 エレンが申し訳なさそうに微笑む。 「わたしもー!」 春日がはいはいと元気に手をあげた。 「……あくまで個人的な予想だが……ぱりーん、がしゃーん」 ぼそっと琴菜が呟く。 「……否定はしない」 澪もやれやれとため息をついた。よくわからずにこにこしている春日。 それを見てエレンが楽しそうに笑う。 「ええ、春日さんもお願いしますね」 にこやかに答えたエレンに、琴菜が苦笑いしながら言う。 「チャレンジャーだな」 「そうですか?大丈夫ですよ……多分」 小首を傾げて微笑んだままエレンは平然と返した。 「そう言えば」 ふと思い出したように琴菜が澪に視線を向けた。 エレンと春日は彼女らの数メートル先を楽しそうに歩いている。 「ここに来てもう3日経ってる。家の人とか、心配しないか?」 並んで歩いていた澪は一瞬僅かに表情を強張らせたがすぐにいつもの無表情に戻る。 「……そういうお前はどうなんだ?」 二人の間にしばしの沈黙が訪れる。気まずい沈黙に割り込むように二人を振り返った春日が駆け寄ってきた。 「どーしたの?ご飯冷めちゃうよ?」 「「……何でもない」」 それだけ言うと後ろ向きに歩いていた春日を追い越すように二人は、少し先で三人を待っているエレンに追いついた。 その日の夕食は厩番のアントニウスも交えて賑やかなものになった。 そんな中、ルギネスだけがいつにも増して口数が少ない。ともすれば不機嫌に見えるほどだ。 「……何かあったのか?」 声を潜めて琴菜は隣の席で顔色も変えず酒をあおっているカサンドラに尋ねる。 「ぅ~ん……ちょっとなぁ~……」 珍しく歯切れの悪い言い方に琴菜を挟んで座っていた澪がさらに尋ねる。 「俺達の事で何かあったのか?」 「ん~……あんまり言いたくないんだよなぁめんどくて」 詳しくはルーかエレンに聞けば?とだけ言ってカサンドラは目の前に並んだ大量の料理を春日とそろって平らげ始めた。 疑問符を浮かべた琴菜と澪を尻目に宴は深夜にまで及んだ。 「……三日後に、出発する」 翌朝、寝起きの悪いルギネスが朝食の席で、何時にも増して掠れて聞き取りにくい声で宣言した。 「え~っと、『ベルギリウス』……だっけ?」 「石精霊さんを探しに行くんだよねっ」 朝から元気な春日とは対照的に、昨夜同様不機嫌な雰囲気を漂わせながらルギネスは続ける。 「あぁ。三人は特に自分の準備もあるだろうし、オレ達も片付けておかないといけない事項もある。コトナとカスガは準備の合間に乗馬を練習できるように頼んである」 「長時間の移動になるんだったら必要だろうな」 澪が静かに付け加えた。 それでは早々に準備を始めませんと、と言うエレンの一言でそれぞれ席を立った。 「なんか、ルギネスもカースも機嫌悪くなかったか?」 琴菜が服の準備をするというエレンに尋ねる。 「昨夜もルギネスは機嫌が悪いように見えたが?」 同じように澪が言う。 「……少し、もめ事が『テーヴェレ』内にありまして……」 昨夜のカサンドラ同様に歯切れ悪くエレンは答える。 「もめ事?ケンカしてるの?」 同じくらいの身長の春日が少し俯いたエレンの顔を首を傾げるようにして覗き込む。 「……『テーヴェレ』設立当時からですから、もう二年くらいになります。幹部級の方達の間で意見の対立や諍いが多くて……そのせいか一般の兵の間でもそれぞれの派閥にあわせて小競り合いが良くあるんです」 「ふぅん……ルギネスやカースが幹部ってことはだいぶ若い者が中心なんだと思ってたんだがその間で?」 「いえ……年代の差、と言うのがもめ事の原因かも知れません」 「って、それなりに年配のヤツもいるのか?」 「『一国で革命を起こす』と言う信念の本、集まったはずの同志なのですが……」 「ケンカしちゃってるんだね」 困ったような顔のまま、エレンは先を歩き始める。 「『石精霊』を探す事にも賛成しているは半数ほどです。邪神『ジュデッカ』の解放すら否定している方もいらっしゃいます。それでも、ルギネス様は何とか犠牲を最小限にしたいから、と自ら行動されて……実際にジルコンさんがこちらにいらっしゃらなければ誰も信じなかったでしょう」 邪神伝説はこの国の、否、世界の人々の中に浸透しきっている。だからこそ邪神が解放されたことを否定したがったのだとエレンは続ける。 「そんな……」 「……嘘であって欲しい、と言う思いが現実から逃避させてるのか」 絶句する琴菜と澪を尻目に、春日はエレンが旅支度にと取り出し始めた色とりどりの衣装に見入っている。 「現国王が邪神を解放させなければ、こんな事にはならなかったはずなんです」 珍しく、エレンが厳しい口調で言い放つ。 その激しさに三人は息を呑んだ。 第一章 第十五節『生きているから、歩き出す』 「沢山の人達が、大切なものを奪われました。……沢山の命が、消えました」 顔を伏せたエレンが血が出そうなほど唇を噛みしめる。 「だから、取り返したい。……これ以上奪われもしない」 全て取り返すことなど不可能だと知っている。 それでもこれ以上奪われたくない。少しでも取り返したい。 そんな想いが痛いほどに伝わってきて、つられて澪と琴菜も目を伏せた。 彼らがあまりに明るく過ごしているから実感出来なかったが、ここにいる人達は皆悲壮な決意を秘めているのだろう。 魔物が襲ってくる、それを退ける。それだけでも大変な事なのに、それだけではないのだ。 『革命』 何かを勝ちとるために、権力者に戦いを挑む事。賭けるものは命。 教科書でしか聞いた事のない言葉。知識として暗記だけしていたもの。 それがどんな思いで成り立っていたかなど今までは……恐らく今も理解など出来ていない。 誰も言葉を発せず、重苦しい空気が流れる。 そんな空気を払うかのように、エレンが笑顔を浮かべた。 「失礼しました。さ、準備を始めましょう」 てきぱきと手際よく服を選び、きちんと畳みなおすエレンはすっかり元の穏やかな雰囲気に戻っている。 「あ、あぁ……」 琴菜もなんとか笑顔を作り、頷いた。 「あ、ちょっと離れますね、すぐ戻りますのでこれ、整理してもらえますか?」 必要な物を思い出したのか、エレンが廊下の外へと出ていった。 それを見送って琴菜が服へと手を伸ばそうとしたとき、 「それなら、なおさらなんで俺達が呼ばれたんだ?」 澪の呟くような声が耳に入った。 二人が澪を見上げると、少し驚いて、失敗したというたような目を澪がした。 口に出している自覚がなかったのだろう。 「いや……俺達は部外者だ。だから最初は手伝う必要などないと思っていた」 琴菜が頷く。 「だが、今は寧ろ……俺達が呼ばれたところで、手伝える問題なのか?と……上手く言えないな」 言葉を選ぶように少し思案した後、澪がもう一度口を開いた。 「……正直、今俺達が受けている扱いは破格なんだと思う。世話を焼いてもらって、幹部級らしい人間と対等に口がきける。……まぁ拉致されて来た訳なんだからそれくらいしてもらってもいいと思うが。だがこれは大きな戦いだ。風向きが変わったんだとジルコンは言った。しかし小娘三人増えたところで何になる?組織内にも派閥があるという。部外者をいきなり引きこんで、とルギネス達の立場も悪くなるんじゃないのか?」 考えを整理しきれていないのか、ゆっくりと語る澪に、琴菜も考え込んだ。 確かにこういう組織では、余所者は歓迎されないように思われる。 それでも助けてほしい、と私達は呼ばれた。 しかし『どうやって』助ければいいのか?『なぜ』私達なのか? その答えは未だ貰えていない。 「きっと、そのうちわかるよー」 今まで黙って聞いていた春日が場にそぐわぬ気の抜けた声を出した。 「お前な、そんな簡単な問題じゃないんだぞ……解ってるのか?」 少しイラついて琴菜がたしなめる。 「だって、なんとなくだけどルギネスさんとか意味のない事嫌いそうだし、必要じゃなかったら強引なことしなさそーなんだもん」 あっけらかんと言い放つ春日に、二人は思わず納得しかける。 会って数日ではあるが、確かにあまり無駄な事はしないタイプに見える。 「それでお前は……」 「あっエレンちゃんおかえりなさい!」 澪が何か言おうとした時に、手に沢山の袋をもったエレンが部屋へと戻ってきた。 「はい、戻りました。皆さんどんなのがお好きでしょうか?」 にこにこと床に袋を広げていく。旅行用の小袋だろうか、質素で可愛らしいものが多い。 「えーっとえーっと」 目を輝かせて選び出す春日と色々説明しながら微笑むエレン。 「レイさんとコトナさんも、選んでくださいね」 「……あ、ああ」 「とりあえず今は、準備か……」 二人も袋を囲んで品定めを始めた。談笑に段々と表情も緩んでくる。 しかし先ほどの会話は澪と琴菜の心の中へ確実に疑問の種を植え付けていた。 出発の日の朝、結局まともに一人で馬に乗れるようになれなかった春日は、野宿用の荷物を載せた小型の荷馬車を操るエレンと同乗する事になった。 それはそれで嬉しいらしく、しきりに荷馬車の周りをきょろきょろと観察している。 琴菜はかろうじて乗れるようになっていたので荷馬車で休憩しながらの小旅行になった。 「おでかけーっ♪『ヴェルギリウス』ってどんなとこ?」 はしゃぐ春日が荷馬車内を整理するエレンを手伝いながら話しかける。手際よく荷物を並べていた手を止めて、エレンはにこやかに答える。 「スティージェ国内で最も大きい湖ですよ。今の時期は湖岸に多くの花が咲いて、それが湖面に映ってとても綺麗なんです。周囲の山々の新緑も綺麗ですし美味しい野草もたくさん芽生えているでしょうね」 「わ~っ着いたら食べてみたいっ」 目を輝かせて春日は自分の着替えの入った明るい若草色の袋を抱きしめた。 一方外では、澪に教わりながら馬具の調整をしていた琴菜が、馬の鼻筋を撫でるジルコンに訊く。 「湖の中って言ってたよな、潜って探せってことか?」 「それは行ってみないとねーわかったのは湖の『中』ってだけだしぃ?ま、今くらいなら水に入ってももうそんなに寒くないから大丈夫っ。ねっ」 ジルコンが何故か楽しそうにカサンドラの方へ視線をやる。 「……カース?顔色悪いぞ?」 「……大いに気のせい」 訝しげにカサンドラを見ながら澪は馬上の人となった。 振り返った視線の先ではルギネスがギデオンに細々とした指示をしている。 「『ヴェルギリウス』までは通常往復で約4日。乗馬初心者を連れて山越えするから6日近くになると思う」 「こちらは私達で何とかなると思いますが、お早目にご帰還を。お気をつけて」 「なー俺やっぱり心配だし残っとくって」 カサンドラが割り込んで進言する。 「いいえ、お気使いは有難いですが若様も最近はお忙しかったわけですし、数日ですが少しは羽根を伸ばしてきてください」 100%好意のみで構成されたギデオンの言葉と同意する(むしろ自分達も行きたいと言わんばかりの)兵士達の笑顔にカサンドラがあからさまに嫌そうな顔をする。 「……いい加減観念しておけ」 ルギネスがため息をつきながらたしなめた。 ギデオンや町の人々に見送られてルギネス・カサンドラ・エレンと澪達三人は出発した。 石精霊と言うだけあってジルコンは本体という精霊石の形でルギネスの荷物の中に同行している。 春の空は晴れ渡っていた。
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何か暇なんでss作るわwss作るの初めてだから温かい目で読んでくださいw みんなのチャット伝説
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ss
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◆再構成の秘宝の鍵 秘宝の宝箱を開ける
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ss ssとは元は総統アドルフ・ヒトラーを護衛する党内組織(親衛隊)として創設されたものである。ヒトラーに憧れ、尊敬し、畏怖し、彼はssに入ることを願った。しかし、時代の悲劇か、それは叶わなかった。それでも諦めきれない彼は、名前と思想を受け継ぎ、BWKに現れた。 同格が同じ部屋に居るのを確認すると、自身以外が降格するまで戦い続ける。独裁的で残虐なそれは、ssという名に相応しいであろう。 スピード:A- テクニック:A- 正確性:A+ 総合:A-